Aquascutum(アクアスキュータム)
Aquascutum(アクアスキュータム)は、トレンチコートをブランドアイコンとするイギリスの老舗ファッションブランド。
1851年にイギリス、ロンドン西部の高級住宅地に仕立て職人ジョン・エマリー氏が紳士服店を開いたのがブランドの始まり。エマリーは創業から2年後の1853年に世界初の防水加工を施したウール生地「Aquascutum」を開発し、これがブランド名の由来になりました。「アクアスキュータム」 は、ラテン語で「水(Aqua)の盾(Scutum)」の意。
1895年にロンドン中心部のリージェント・ストリート100番地に旗艦店をオープンし、1980年代には、ジョン・メージャー元首相やマーガレット・サッチャー元首相を含む多くの政界の大物たちがアクアスキュータムを身にまとい、次第に認知を上げていきました。
アクアスキュータムの紋章の意味
現在のアクアスキュータムロゴの一部となっているクレスト(紋章)は1982年に英国紋章院(College of Arms)によって、過去の業績を評価され、その紋章を認可されました。紋章院は中世ヨーロッパにおいて紋章を管理していた国家機関でしたが、殆どの国において消滅し、現在も存続しているのはイギリスのみです。
英国紋章院は総裁と13人の紋章官で構成され、総裁はノーフォーク公家(Duke of Norfolk、英国公爵位の一つ。1397年より続く家柄)の世襲です。紋章の新規登録は形式上、英国国王(女王)からの授与となる為、紋章を与えるに相応しいかどうかの適格性を審査され、請願者は経歴、背景、社会的貢献等をまとめた資料を作成し提出する必要があり、紋章院がそれを審査し、署名することで初めて紋章授与の手続きが始まります。
紋章のデザインは自由に決めることが出来るわけではなく、歴史の中で培われた様々な紋章のルールに従わなければならず、又、同一国家・地域の中でまったく同じ図柄の紋章があってはならず、紋章官は長年の伝統と紋章学から得られた原則に基づき、提出された資料を元にそれにふさわしい紋章図案を考案します。(引用:Aquascutum)
伝統様式に沿ってデザインされた紋章は、4つの要素で構成されています。
1.シールド(盾) | 盾の水滴が描かれた青の部分は「水」を表わしています。 |
2.クレスト(兜飾り) | 盾の上にあるのが騎士の兜。兜飾りは剣をかまえるライオン。ライオンの赤はイングランド、黄色はスコットランドを意味し、剣の赤はシティー・オブ・ロンドンを象徴しています。 |
3.マント | 兜の左右、盾の下から左右に伸びているのがマントです。 |
4.モットー | 盾の下に印字されたラテン語がモットーで「われら、この盾の中に信念を持つ」という意味です。 |
英国王室御用達「ロイヤルワラント」
世界各国の王室に商品を納入しているブランドに与えられる「王室御用達」の認定の中でも、イギリス王室の「英国王室御用達(ロイヤルワラント)」は代表格。
厳しい審査や管理を経て、王室が実際に使用し、英国王室に最低5年以上納品している実績があるものから英国女王、エディンバラ大公、ウェールズ公が認めたものだけにそれぞれの紋章が与えられます。認定されたブランドは与えられた紋章(最大3つ)を掲げることができますが、5年ごとに審査があり、常に高品質の商品を提供することが求められます。
アクアスキュータムはイギリス王室との関わりも深く、エドワード7世からプリンスオブウェールズ柄(グレンチェック柄)のコートの依頼を受けたことがきっかけで、1897年にロイヤルワラントを与えられ、王室御用達ブランドとなりました。
アクアスキュータムのトレンチコート
アクアスキュータムの象徴であるトレンチコートは、1914年に第一次世界大戦で戦う英国軍のために開発されました。「トレンチ」とは、兵士たちが戦場で身を守るための「塹壕」のこと(原型のコートはその前から日常作業着として存在していたそうです)。
過酷な状況で戦う兵士を守るためにトレンチコートが誕生し、耐久性、防水性、防寒性、機能性を備えたコートは兵士達を守りました。トレンチコートの開発の一線を担ったのがバーバリーとアクアスキュータムです。
1959年に開発された、生地に特殊な加工を施して、防水や防シワ機能を付与する「アクア5」はレインコート史上最高の技術的進歩であると評価され、英国女王賞を受けたことで国際的に注目を浴びました。
レナウンの経営破綻
1990年に日本企業のレナウンがアクアスキュータムを約200億円で買収。しかし、景気低迷や販売不振により業績が悪化したことから、変遷を経て、最終的にレナウンの親会社である中国の大手繊維会社、山東如意グループに買収されました。レナウンが日本国内での商標権を取得して販売していましたが、2020年5月にレナウンが経営破綻し、小泉グループのオッジ・インターナショナルがアクアスキュータム事業を取得しました。
セールでアクアスキュータムの英国製トレンチコートを購入するまで
レナウンの経営破綻をうけて、異例とも言えるアクアスキュータムのセールが始まりました。
私にとってアクアスキュータムのトレンチコートはいつか手に入れたい物でしたが、定価約20万円のコートは手が届かない憧れの存在でした。それが今回の一件で、今までほとんどセールにかけられなかった英国製のトレンチコートが直営店、アウトレット店、オンラインストアで値引きされ始めました。
①モデル|KINGSWAY(キングウェイ)とPRINCEGATE(プリンスゲート)
アクアスキュータムのトレンチコートの定番モデルといえば「KINGSWAY(キングスウェイ)」と「PRINCEGATE(プリンスゲート)」。
1930年に発表された「KINGSWAY(キングスウェイ)」は2004年にリモデルして「KINGSGATE(キングスゲート)」として販売されていましたが、2019AWからさらにリモデルしてKINGSWAY(キングスウェイ)の名前に戻りました。
KINGSWAY(キングスウェイ) | アクアスキュータムの元祖トレンチコート。ラグランスリーブ、ガンフラップ等、当時のディテールを色濃く残している。着丈が長い。 |
PRINCEGATE(プリンスゲート) | 第一次世界大戦時、英国軍に配布されたサービスキットから当時のディテールを忠実に再現したモデル。セットインスリーブ。キングスゲートに比べて着丈が短い。 |
元祖トレンチコートのディテールを色濃く残しているキングスウェイがまず最初に選択肢に挙がると思います。プリンスゲートも定番モデルですが、レナウンが企画して販売しているモデルのため、本国では販売されていません。
キングスウェイ一択のような気がしますが、こちらは着丈が長い分、身長が低い人が着ると服に着られている感がかなり出ます。私も試着しましたが、無理して着ているように見えて体格に合っていませんでした。
ディテールの好みはあると思いますが、サイズ感はかなり重要だと思いますので、キングスウェイとプリンスゲートの2モデルは身長175cmを基準に選ぶことをオススメします。
KINGSWAY(キングスウェイ) | 身長175cm以上 |
PRINCEGATE(プリンスゲート) | 身長175cm以下 |
171cm、54kgの私はプリンスゲートの試着がしっくりきたので、プリンスゲートを狙うことにしました。
②サイズ選び
公式オンラインサイトの各商品ページに詳しいサイズ表記がありますが、ざっくりと上の表記のサイズ感が参考になります。私は36がマイサイズでした。
③生産国|英国製と日本製
レナウンが日本国内でライセンス販売していたこともあり、定番トレンチコートは英国製のほかに日本製もあります。シルエットやサイズ感、ディテールに若干の違いがあり、値段は英国製のほうが高いです。
意外と日本製のほうが縫製が丁寧だったりして侮れないのですが、私がトレンチコートに求めるものはロマン。英国発祥のトレンチコートは英国製にこだわりました。
④色選び|ベージュかネイビーか
定番色はベージュとネイビーの2色です。トレンチコートといえばベージュ。春秋にも使える色でコーディネートの幅も広いです。ただし、色の合う合わないがありますので、試着したときの印象や普段のコーディネートとの合わせ方を考えて選びましょう。
試着では、私にはベージュよりもネイビーの方がしっくりきたため、ネイビーを選びました。なんとなくですが、黒髪にはネイビー、茶髪にはベージュが似合うような気がします。
生地の擦れが目立ちにくいのはベージュ
綿は摩擦で擦れると毛羽立つため、その表面で光が乱反射して白く見える現象が起こります。ネイビー(紺色)の綿生地は特にこれが目立つため、生地の擦れが目立ちにくいのはベージュです。
⑤表地の素材
レナウンがアクアスキュータムの英国製トレンチコートを取扱い始めてから、少しずつモデルチェンジが行われているため、基本は表地が綿100なのですが、物によってはポリエステル混のものが流通しています。
現在取扱われている英国製キングスウェイとプリンスゲートは綿100ですが、通販で購入する時は注意が必要です。気にならなければ問題ないですが、本物志向でこだわるなら綿100の生地は外せません。
セールを逃した末にプリンスゲートを購入
レナウンの経営破綻後、2020年の夏が最も安くアクアスキュータムのトレンチコートを手に入れられた時期のようですが、私がアクアスキュータムのセールを知ったのがつい最近でした。何となく公式オンラインストアを訪れると、アウトレットで英国製プリンスゲート(ネイビー)が約20万から約15万円に値引きされていました。
おそらくこれでも今まで一番高い値引率だったとは思うのですが、新米社会人にとって15万円は大金です。もう少し待てば10万円くらいまで値引きされるのでは?と期待して待っていたのですが、いつの間にか在庫売り切れに。
在庫処分セールだったため、当分英国製のプリンスゲートの再入荷はなさそうということがわかり、セールのチャンスを逃してしまいました。そんな意気消沈していた私にいつもお世話になっているGILTからアクアスキュータムのセール案内が来ました。セール開始と同時にアクセスしたところ、英国製のプリンスゲートが2色とも32〜40のサイズで限定販売されているではありませんか!価格もほぼ半額の約11万円。ベージュは人気色のため、既に売り切れでしたが、ネイビーのマイサイズ36を運良く購入することができました。
トレンチコート「PRINCEGATE(プリンスゲート) 」購入レビュー
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憧れのアクアスキュータムのトレンチコート。ハンガー付き。吊して眺めているだけでもその佇まいのオーラに酔いしれることができます。
英国製。
プリンスゲートはレナウンが企画して英国で生産しているモデル。生地は日本製のものを使用しているようです。
付属の替えボタン。水牛ボタンに印字されています。
アクアスキュータムのトレンチコートのディテール
アクアスキュータムのトレンチコートは50種類以上のパーツで構成されており、英国製のものはロンドン東部の工場で職人の手により約70の工程、約6時間をかけて、一着のトレンチコートが出来上がります。プリンスゲートの細部にも軍服として使用されていたトレンチコートの名残が見られます。
かぎフック
のど元をしっかりと留めて雨風を防ぐためのかぎフック。
エポレット
階級章バッジを付けていたことから、エポレット(肩章)と呼ばれるショルダーストラップ。後に銃や双眼鏡、水筒のストラップが滑り落ちるのを防ぐために使われたり、倒れた兵士を引きずって救出する際に持ち手としても活用されました。ボタンで取り外し可能。
スロートラッチ(スロートタブ、チンウォーマー、チンストラップ)
スロートラッチ(スロートタブ、チンウォーマー、チンストラップ)は、雨風が侵入するのを防ぐため、襟を立ててフック留めした襟元を上からカバーすることができます。未使用時は襟裏に収納されています。
かぎフックを締めて、ボタンをかけて、ベルトで固定してとちょっと手間がかかるので使うことはほぼないと思いますが、男心がくすぐられる格好良いディテールです。
ガンフラップ
右前合わせなら左側、左前合わせなら右に付けられているガンフラップ。ライフル発砲時の肩への衝撃を和らげる役割を担っていたディテール。ラペルをここのボタンで留めることで、風や雨から身を守ることができます。
ストームポケット(貫通式ポケット)
ボタン留め式のストームポケットは雨風の侵入を防ぐディテールですが、特徴的なのはポケットが内側まで貫通していること。手を入れた先の下側に袋布が付いています。ベルトや前立てを締めた状態でジャケットに収納した小物を取り出すことも可能です。
プリンスゲートはポケットが二重になっており、上は一般的なコートのように裏地が付いていて手を温めることができる非貫通式のポケット、下が貫通式ポケットとなっています。
スリーブストラップ(カフスストラップ、アームベルト)
袖口から雨風が侵入しないように、また、腕を動かした際に袖がまくり上がらないように、袖を絞ることができるスリーブストラップ(カフスストラップ、アームベルト)が付いています。
Dリング
ベルトに取り付けられたD字形の金属製リング。もともとは、手榴弾、ナイフ、水筒などをぶら下げるために使用されていました。落下させると命に関わるものをぶら下げるため、その名残でベルトにしっかりと固定されて強度が保たれています。現代においてはただの装飾ですが、当時のディテールを妥協することなく再現しているのが良いですね。
ストームシールド(アンブレラヨーク)
雨がかかる背中のヨークが二重構造になっており、雨の浸透を防ぐため、「アンブレラヨーク」とも呼ばれます。バーバリーのトレンチコートはこの部分が波打っていますが、アクアスキュータムのトレンチコートは直線上にデザインされています。
インバーテッドプリーツ
ひだ山を突き合わせた構造のプリーツ「インバーテッドプリーツ」。腰上まで長めに切れ込みが入っており、内側のボタンを外すと大きく拡がります。乗馬する際に、足の動きを邪魔しないように考案されました。
クラブチェックのライニング(裏地)
ライニング(裏地)には、ブランドを象徴するクラブチェック柄が使われています。
セットインスリーブ
バーバリーを含め、アクアスキュータムのキングスウェイなど元祖トレンチコートはラグランスリーブが採用されています。残念ながらプリンスゲートはそのディテールは引き継がず、セットインスリーブになっています。英国らしい肩パットが入っているかのようなカチッとした印象になりますが、ここは好みが分かれるところですね。
内側には表のボタンのさらに一つ下にボタンがあり、ボタンをかけることでぴっちり締めることができます。
試着・サイズ感
サイズ | 36 |
着丈 | 96.5cm |
袖丈 | 63.25cm |
身幅 | 53.5cm |
171cm、54kgの私は36が適正サイズ。
アクアスキュータムのトレンチコートはシルエットが末広がりのAラインなのが特徴。
ボタンを外し、ベルトをしないでトレンチコートを羽織るコーディネートを見かけますが、ベルトには肩に集中するコートの重さを腰や背中分散させる機能と、ベルトを締めることで美しいシルエットを生み出す効果があるため、基本的にベルトは締めたほうが良いと思います。
ベルトの位置はパンツ(トラウザーズ)の上、くびれに沿うように設計されており、足長効果もあるので使わない理由がありません。
第2ボタンまで外した状態で着ることが多いと思いますが、第1ボタンまで留めるとさらにクラシックな雰囲気になり、襟を立てても格好良いです。
人生初のトレンチコートのため、ベルトの結び方はこれから試行錯誤する必要がありそうですが、無造作に結んでも様になります。もちろん、バックルに通しても良いでしょう。
期待を裏切らない一生モノのコート。
1年前に初めて試着した時から、トレンチコートはアクアスキュータムのプリンスゲートを買おうと心に決めていましたが、思わぬ縁で手に入れることになりました。もう温かくなってきたので、本格的な登板は来冬からですが、眺めているだけでも所有欲を満たしてくれる一生モノのコートです。
中国企業による買収、レナウンの経営破綻とブランド存続が不安定な状態のため、今後どういった生産体制になっていくのか気になります。英国公式サイトでは在庫処分セールになっており、インスタグラムは更新が止まっています。このコートもいつの日かデットストックになるのかもしれません。
今市場に出回っている在庫でセール価格のものを探すと定価より安く手に入れられるでしょう。綿100の表地にこだわらなければ、楽天市場で販売されている英国製プリンスゲートが安いです。
日本のオンラインストアでは英国製プリンスゲートは在庫切れとなっているため、直営店も在庫限りとなっていそうです。